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竜の首〜はじまりの物語

Category短編小説集
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むかしむかし。
ある宝珠の実のなる樹を護る一頭の竜がおりました。

竜はお腹が空くと山奥から空へ飛び立ち、町や村里に降りては人間を食っておりました。

とうとう堪りかねた人間たちは、竜の退治に挑むことにしたのです。

森を抜け山の頂に宝珠の樹と竜はおります。
竜の首切りに頭に集中して百人もの人間が剣をかざしました。
人間たちは竜の首をとるために縺れ合い、なかにはお互いを傷つけあう者もおりました。

一人の武者が、竜を囲んで縺れ合う人間たちのなかから跳びだし、竜の尻尾を斬り、脚を斬り、胴を刺しました。

からだのあちこちに傷を負った竜は、とうとう身動きがとれなくなり、抵抗する力を失いました。

すると一番竜の首に近かった人間がすかさず首を一太刀に切り落とし、竜は息絶えてしまいました。

竜退治を終えた人間たちが町に戻ると、竜の首は飾られ人々から崇められました。
そして首を切り落とした人間は英雄となりました。

武者が切り落とした竜の尻尾や足は死しても鮮やかに保たれておりました。
畏れた武者は、密にそれらを封印しましたが、傷から流れ出るその血は腐らず濁らず減らず、一口含めば万能の薬として武者一族の代々の家宝とし、人びとのために役立てました。

竜の肉は至宝の味と噂されておりましたので、英雄と武者を除く数多の人間たちに持ち帰られ、豊かな人々のための毎夜の宴で食されたため、瞬く間に無いものとなりました。
また、竜の骨はこの世に類のない剛健なる力を与える剣と盾となり、鎧の人々から重宝されました。


竜の守護を失った宝珠の実のなる樹は、時も経たずに世界中の人間たちに根こそぎ破壊され、その実とその樹はばらばらに奪われてしまい、争いの絶えない世界となってしまいました。


『竜の首〜はじまりの物語』より